僕はその残酷の中に立って 君のことを思い出している

もう一カ月近く前のことになるけれど、棚ぼたで『あゝ、荒野』の前楽を観劇してきました。松本潤というひとは美しいひとで、強さとそれに相反する脆さをとても美しく魅せるひとだと思った。あのひとは絶対に道を踏み外さない正しさを持っていて、でもだからこそ何かに足を取られて危うい立場に置かれてしまう。良くも悪くも正しすぎる、陽のひとだなあと思った。
 
かねてから潤くんの演技の場所は舞台がいいと思っていたので5年ぶりの大舞台に居合わせられてとてもうれしかったです。前回の舞台の時は蜷川×野田作品でいきなり座長というプレッシャーが彼を喰いつぶしてしまうのではないかと思ってしまうくらい不安だった。観たのは東京楽の1週間前だったけれどもう声はガラガラで、とにかく潤くんがものすごく努力したんだな、他のひとの何倍も努力してるんだなってのがわかって、がむしゃらにならないと周りから置いてけぼりになってしまう絶対的な経験の差が見えてしまって、カンパニーとしてはまだまだ座長に自信を持たせることは出来なかったんじゃないかと、今だからこそ思う。
でも今回は違った。自信かどうかは本人の口から聞きたいところだけど、座長を背負う潤くんの背中はとても力強かったし、余裕が見えて、”カンパニーでいちばん頑張っているひと”になっていなかった。ちゃんと周りと歩幅が揃っていることが感じられてわたしはとてもうれしかったです。
あんなに立ち姿に華があるひとなかなかいないよね。舞台役者は顔よりも身体が命なので、今回みたいに作り込むことで華奢なだけじゃなく綺麗に筋肉が付いていて本当にため息でした。彼のストイックさと生真面目なところ、あとまっすぐだからこそ影が見えないところに合った役、合ったストーリーだったと思う。演技の良し悪しとはべつに本当に存在感がものすごくて、彼はスターになれる(一握りの)ひとなんだなあと思った。そして「この肉体が俺だ!」と吠えて相手を納得させることのできる肉体だった。あまりに頬が削げてチンピラとしか言えないギラつき具合に最初は戸惑ってしまったよ。
 
でも観客の多くは新次ではなくバリカンに近い気持ちであの話を見つめただろうな。小出恵介が演じるバリカンというひとは吃音で何より表情が乏しくて、それがなんとも涙腺をゆるませた。
もし松本潤というひとを特別に思っていなかったらもっとフラットに向き合えたのかもしれない。そう考えるとちょっと惜しいことをしたなあ、ファンだからこそ大きいものだった、ではない位置から出会いたかった。ようにも思う。
 
全然関係ないけれど、この日ずっと聴いていたのはalaのshe's the one

向き合う姿勢も見せずに 向き合えるはずなんてない
でも出来るなら
向き合う姿勢も見せずに 向き合える関係でありたい

この理屈っぽいやさしさが潤くんだなーと思う